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100年前、「蓬莱米」を石垣島導入の仲本賢貴

台湾から導入した蓬莱米の生育を視察する仲本賢貴技手(左から3人目)=1930年(昭和5年)ごろ(故・仲本貞子さん提供、石垣市教育委員会文化財・市史編集課所蔵)

台湾から導入した蓬莱米の生育を視察する仲本賢貴技手(左から3人目)=1930年(昭和5年)ごろ(故・仲本貞子さん提供、石垣市教育委員会文化財・市史編集課所蔵)

仲本賢貴の遺影とひ孫の竹内佑さん=3月26日、字石垣の仲本家

背広に縫って持ち帰った 孫・貴子さん調査で浮き彫りに

 日本統治下の台湾で開発された米の新品種「台中65号(蓬莱米)」が1925年(大正14年)に字石垣出身で八重山支庁農業技手の仲本賢貴(1887~1939年)によって石垣島に導入されてから今年で100年を迎える。台中65号は当時、台湾外への持ち出しができなかったとみられ、仲本が島のためにという一心で石垣島に持ち込んだという秘話が、仲本の足跡を追っている孫・仲本貴子さん(73)=那覇市、字石垣出身=の調査で浮き彫りになりつつある。

農業に革命

 仲本の功績は「八重山の歴史と文化・自然」(石垣市教育委員会)でジャーナリストの三木健さん(85)が取り上げている。同書によると、1925年当時の八重山では在来米が栽培されていたが、もみのつきが悪く、肥料も使わなかったため収穫量が少なく、島外からの移入に頼っていた。

 仲本は「水田の豊富な八重山が、島外から米を移入しているのを何とか改善したい」と1925年に台湾の農業試験場から新品種の種もみを持ち込み、10年かけて普及させた。収量は2倍に増え、二期作もできようになった。これにより移入に頼らず自給ができるようになった。

 三木氏は「台湾からは蓬莱米やクルバシャー(水田の表面をならす回転棒)、水牛も入ってきて、八重山の農業に革命をもたらした」と仲本の功績をたたえる。

長年の謎

 貴子さんによると、仲本は当時、台湾にいた弟の嫁の葬儀に参列するために渡台して約3週間滞在し、その際に台中65号の種もみを入手して持ち帰った。その方法について仲本家では「種もみを背広の裏地に縫い込んで持ってきた」と伝えられている。なぜ隠すようにして持ち込んだのかが長年の謎だった。

 さらに「八重山歴史」(喜舎場永珣著)には、仲本は台中65号とは違う3品種の無償譲与を試験場から受けて帰庁したと記されているが、「八重山在来米栽培体験記」(石垣稔著)には台中65号を入手して持ち帰ったと記述されており、貴子さんはどちらが正しいのか疑問に思っていた。

氷解

 貴子さんはことし3月15日、台中65号開発の研究拠点となっていた「磯永吉小屋」の落成100年記念行事に出席し、台中65号開発など台湾総督府の農業振興策に関する講演を聞いた。

 通訳がなく話す内容は理解できなかったが、スライドの漢字は大方理解できた。すると「1921年9月、植物検査所」の文字が目に飛び込んできた。「突然謎が解けた」と感じた。

 つまり、台湾では21年から植物検疫が行われていたことになる。さらに「台湾を愛した日本人Ⅲ」(古川勝三著)には、台中65号は24年に開発されたばかりで「選抜という時間のかかる作業が待っていた。そのため、選抜を終えるまでは『台中65号』という新品種の名前を伏せることにした」との記述がある。

 こうした植物検疫と育成期間などの状況から貴子さんは「25年当時、台中65号を持ち出すことができなかった。だから祖父は台中65号を背広に縫い込んで持ち込むしかないと考えたのだろう」と推測する。

後世に

 貴子さんは「祖父は必死の覚悟で、石垣の人々を愛する一心で、何が何でも持ち帰りたいとこっそりと持ち帰ったのではないだろうか」と話し、さらに調査を継続する。

 仲本は1939年(昭和14年)9月、療養先の台湾で亡くなった。52歳だった。貴子さんによると、病気の治療のため台湾に渡っていたという。

 字石垣の仲本家の仏壇に仲本の遺影がある。母親の貴子さんらとともに昨年6月に磯永吉小屋を訪ね、仲本の足跡の一端に触れたひ孫の竹内佑さん(47)=字石垣=は「曾祖父には悩みや葛藤があったと思うが、最後の手段として背広に隠して持ち帰ったのではないか」と思いを巡らせる。

 三木さんは「仲本の功績はあまり知られていない。蓬莱米渡来100年を機に、戦前の新聞や公文書などの資料も収録しながら仲本の足跡をまとめたい」と話し、貴子さんと協力しながら年内に仲本の足跡を本にまとめる予定だ。

  • タグ: 石垣島蓬莱米
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