連載【揺れる地域・第2部】〜陸自石垣駐屯地開設1年〜《20》
- 2024年08月30日
運動6年、見えたもの
金城龍太郎さん ㊦
石垣島の特産品であるパイナップルやマンゴーは、県内最高峰の於茂登岳を中心とする山々から湧き出る水や山の土壌を生かして生産されている。
金城龍太郎さん(34)=嵩田=もマンゴーやアテモヤ、アセロラを育てている。「山が水を蓄え、いろんな微生物が水をきれいにし、作物が恩恵を受けながら海へ行く。だから、白保にサンゴ群もできるのだろうし、於茂登岳の恩恵をすごく受けている」と感謝する。
於茂登岳のふもとにこれまでなかった駐屯地ができたことで、農作物にはどのような影響が出てくるのだろうか。農家の多くはこのことを一番心配している。
ずっと不安を訴えてきたが、配備へのプロセスは一方的なものだった。沖縄防衛局に「なぜこの場所か」を問うも「いろんな要素から総合的に判断した」の一点張り。具体的な説明は乏しく、計画修正に耳を貸す余地もなかった。
「農家はここの自然から恩恵を受けて作物を育てているので、自分たちが使っている農業用水だったり、自然環境がどう変わるのかというのはやはり不安」と漏らす。駐屯地開設後、これまでほとんど見なかったイノシシが山から追い出されたかのように畑に下りてくるなどの変化も感じている。
マンゴーやパインは、於茂登岳を中心とした酸性土壌でしか栽培できない。海に近づくと、だんだんアルカリ性の土壌になるため、島内でも栽培できる場所は限られる。
「宮古では山がないからパインはつくれない。マンゴーは赤土を補助事業で持ってきて、すごく苦労してつくっている。島ではこの一帯でしかつくれない特産品が育つ場所を、わざわざ駐屯地にしてしまうのは、石垣島の産業面でもプラスなのかなと思ったりして…」。
嵩田は30世帯ほどの小さな地域だが、地域の人が食べ物を持ち寄って集まる「ワールドゆんたく会(通称・ゆんたく会)」が定期的に開かれたりするなど「地域で一人一人のことを気にかけてくれる」顔の見える温かなコミュニティーがある。
台湾から戦前に渡ってきた自由移民の人たちをベースに宮古、与那国、石垣、本土、沖縄本島などから来た人たちで形成され、「八重山は"合衆国"と言われているけれど、さらに縮図だと思っている」。ルーツが多様で、みんなが協力・尊重しあって地域が心地よく回っている。
金城さんは、石垣市住民投票を求める会の代表として「住民投票を行う権利があった」との主張が認められるよう上告している。
ただ、地裁や高裁では訴えが認められず、最高裁の門が開くのはわずか1~2%ほど。住民投票の署名集めから約6年がたち、その間に数々の困難にも直面したが、「地域が好きだから、大変な運動も続けられる」と前向きだ。この運動を通して見えてきたこともある。
「首長が変われば手っ取り早く政策も変えられるけど、簡単に市長が変わるようなまちだといい方向にも悪い方向にもすぐなる。すごく長期的に、市民一人一人がさらにもう一段深く考えたら、その人たちが選ぶ議員さんや市長の意識もどんどん変わって、何があっても揺らがない島になると思う」。そんな理想を追い求め、地道な活動に励む。
(三ツ矢真惟子)
(次回は9月5日に掲載)
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