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連載【揺れる地域・第2部】〜陸自石垣駐屯地開設1年〜《18》

駐屯地建設による地下水への影響を懸念する、金城哲弘さん=2023年11月2日、金城さん宅

駐屯地建設による地下水への影響を懸念する、金城哲弘さん=2023年11月2日、金城さん宅

追求してきた農業実現
地下水への不安募る
金城哲弘さん

 「市長は国の意向をどんどん押し切っている。市長を変えるしかない」。

 マンゴー農家の金城哲弘さん(69)=嵩田=は、22年2月に行われた石垣市長選で石垣島への自衛隊配備を容認してきた現職の中山義隆氏を倒すほかに、周辺地域の声を聞いてもらう道はないと考えていた。

 2020年2月に市長の解職請求も視野に市民有志から成る団体「石垣島の未来をつくる会」を立ち上げたものの、この時期からコロナ禍に見舞われ、外出自粛などの影響で運動は頓挫した。

 22年市長選では、前回18年市長選で「場所の変更」という第三の道を訴えた市議の砂川利勝さんを押し上げようとまとまっていた直後、砂川さんが享年57歳で亡くなった。その後、”保革共闘”で保守系市議の砥板芳行さんが擁立されたが、完全にはまとまり切れず落選。2454票差で中山氏が4選を果たし、翌年3月に陸上自衛隊石垣駐屯地が開設した。

 「地域にとって本当に大事な場所。そういうのを無視して、島の環境も理解せずに国の意向に沿ってやっていくのは、今でも危ないと思っている」。

 金城さんは与那国町祖納出身。幼少期から実家の農業を手伝っており、大学在学中も長期休暇などは稲刈りに駆り出された。両親は公務員になってほしかったというが、「これまでとは違った農業をしよう」と決意。県内で農業研修を受けようと思っていたが、米国への農業研修派遣の募集に受かり、現地で2年間、畜産を学んだ。

 与那国へ帰島後は石垣島の農業機械のメンテナンス会社に就職。まとまった土地を求めて30歳の時に嵩田に農地を購入、35歳の時に畑の一部を宅地申請し、家を建てた。当時は露地栽培のびわ生産を行っていたが、徐々にマンゴー栽培にシフトした。

 この土地に合った生産物を長年かけて探し求め、やっとのことで現在の農業にたどり着いた。そんな時に、農地のすぐ近くに駐屯地ができる計画が浮上し、開設された。金城さんが今も心配していることの一つが排水問題だ。

 「あちこちであるように、PFOS(有機フッ素化合物)が流れる可能性が十分にある。そうすると、地下水にも農業用水にも影響が出てくる」。

 宮古島市では、計画区域の一部が市地下水保全条例の保護地域に指定された水道水源流域だったため、同条例に基づく事前協議で専門家から地下水保全に関する意見があり、同地域を外す形で計画を修正、基地面積は縮小された。

 「以前のようになかなか抗議集会とかには、農業をやっていて時間が限られているので行きづらい。僕らはまた違った形で、やっぱり拡大させないように止めていかないといけない」と考える。

 「本来ならばみんなの意見を聞くような形で進めなければいけないのに、島を二分してしまった」と振り返りつつ、今も不安をぬぐえないでいる。

 「このままいくと、日本全体が戦前になってしまうんじゃないか、基地があるところが犠牲になってしまうのではないか。子どもや孫のことを考えると…」。

(三ツ矢真惟子)

(次回は29日に掲載)

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