連載【揺れる地域・第2部】〜陸自石垣駐屯地開設1年〜《16》
- 2024年08月16日
「立場は対等」もやるせなさ
小林丙次さん㊦
陸自配備に反対する「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」には、駐屯地の周辺地域からも代表者が一人ずつ出席し、うち2人は共同代表も務めた。だが、開設後は「あるものに反対するよりは、これから先のことを考える必要がある」などの理由から周辺地域の住民は代表を退いた。
開設前に開南集落から代表して出席していた小林丙次さん(62)も「開南はとにかく一番近いから、自衛隊との関わりがある。これから先、ずっといがみ合っている訳にはいかない」との考えを持っている。
一方で「今でも島に基地を置くべきではない」とも思っている。自衛隊自体は必要との考えだが、「今の時代に新しく基地をつくるのを快く引き受ける人はいないだろう」。
昨年3月の石垣駐屯地開設時、「駐屯地で使用するラッパの音がどのくらい集落に漏れるかを聞いてほしい」と石垣駐屯地から依頼があった。「場合によってはボリュームを調節すると言われたが、全然聞こえなかった」。
半年後の9月。「空砲を鳴らす」との知らせがあった。その際も集落内には「事前に知らせてくれて親切だね」との受け止め方が多く、あまり心配していなかったという。
ところが、今回は「結構はっきり聞こえて、『えっ』となった」。当初は、開設半年を記念した駐屯地の一般公開で実演を行うためと思っていたが、イベント以外でも日常的に空砲を使用した演習があるとの説明を受けた。
このため、開南公民館は空砲を使用した訓練の自粛を駐屯地に申し入れ、同年11月には市からも求めるよう、中山義隆市長にも要請した。
「気を付けるところは気を付ける。地域として常に反対ではないが、ポイント、ポイントでは話していかないといけないと思っている」。
駐屯地を建設する代わりに、公民館を建て替える話も浮上したが、集落では今ある建物で十分という判断になった。
「世帯数が少ないのに立派な公民館を建ててどうするのと。公民館をもらったら全部認めましたとなって、今ごろは空砲訓練でパンパンと鳴っているわけでしょ」。
地域が駐屯地と「対等な立場」でものが言えることの重要性を認識したうえでの決断だった。
それでも、先行きには不安が募る。今後のあり方について思いをめぐらせていたとき、ふと「でもね…」と考えが止まる。
いま起きていること全てに関心が持てなくなっているというのだ。
「一番大きかったのは、住民投票ができなかったこと。何十年も先にまで関わる大事なことがこんなうやむやな結果になって…。これ以上、重要なことはないんじゃないか」。やるせなさがこみ上げる。
(三ツ矢真惟子)
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