牛飼い廃業「もう限界」
- 2024年03月06日
- 社会・経済
終わりの見えないセリ価格の低迷を受け、石垣市内で子牛を生産する複数の専業農家が廃業を決めていることが分かった。3月のセリを最後に廃業する80代男性は「今年の初セリの落札価格を見てやめる決心をした」とやるせない気持ちを語った。八重山家畜市場と黒島家畜市場の子牛のセリ価格は、新型コロナウイルスのまん延やロシアのウクライナ侵攻などの影響を受けて肥育農家の購買意欲が弱含みとなり暴落。国がもくろむ中国への輸出のめども立たないことから回復の兆しが見えない状態が続いている。
「やればやるほど」
男性は民間企業を定年退職した後に就農。子牛生産一筋でやってきた。朝6時には牛舎に「出勤」。毎日、休むことなく夕方まで牛の世話をしながら牛小屋で過ごした。妻には数年前に先立たれ、今は1人暮らし。セリで高値が付けばまだまだ現役と考えていたが「やればやるほど赤字が積み重なる」と断念。「牛をやめたら何をしたらいいのか」と視線を落とす。
若い農家の行く先も気がかりで「家族を養う若い人は大変だ。何とかこの苦境を乗り越えてほしい」と気遣う。
子育て世代「掛け持ち」
約40頭の母牛を飼養する30代の男性は、新型コロナウイルス発生前の年に牛舎を増築し、増頭したが「赤字経営が続いている。バイトの掛け持ちで生活費を稼いでいる状態。子どもがいるのに、この先どうなるのか心配でたまらない」と胸の内を吐露。「牛飼いは比較的若い人が多いが、これでは続けられない。関係機関はもう少し危機感を持ってほしい」と訴える。
別の農家の男性は「妻の収入が安定しているので生活できているが、牛は毎月、赤字を垂れ流している。もう限界が来ている」とため息交じりに説明した。
数年前に就農し、牛舎を新築。現在は二十数頭を飼養する男性は「金融機関への支払いを1年間止めてもらっている状況。子牛を売っても赤字が累積するだけ。妻には家計を支えるためにバイトに出てもらっている。小さな子がいるので生活が大変だ。九州などのように自治体の支援があると助かる」と苦境を訴える。
廃業連鎖恐れも
今年に入り、母牛の上場が増えているという。1月のセリには、通常の数倍の母牛が上場した。関係者は、規模縮小や廃業に向けた動きと見ており、今後、さらに廃業する農家が出る可能性がある。
石垣島和牛改良組合の比屋根和史組合長は「複数の人が廃業すると聞いている。規模縮小する農家もある」と説明。自身も飼養頭数を80頭から半減させている。「体外受精や借り腹出産の技術が向上し、本土では生まれた牛の売り先がない状態に陥っていると聞いている。関東の業者が北海道の市場に子牛を出したりしている状態。八重山まで購買者が来なくなる可能性がある」と指摘する。
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